出典明記: 読売新聞2017年11月7日朝刊掲載
女性活躍 個性の評価から
今年8月の労働力調査によると、生産年齢人口(15~64歳)に占める女性の労働力率は69.9%で、そのうち「M字の谷」と言われてきた35歳から44歳は75.6%だった。女性の就労及び継続就労は着実に増え、「M字の谷」がなだらかになってきていることが確認できる。企業における育児休業等の両立支援制度が整備されてきたことなどが、一定の効果を上げていると言えるだろう。
一方、管理職における女性の比率は、10.3%(2016年厚生労働省データ)と、増加傾向にはあるが、政府目標の30%には遠く及ばない。現場からは、出産後職場復帰したものの、以前のような責任ある仕事が与えられず、キャリアアップが遠のいた」という女性の声や、性別を問わず、「管理職の女性の比率を上げようと躍起になっている結果、男女間での逆差別が起こっているのではないか」との懸念の声をよく耳にする。
女性の就労が増えることは、女性活躍の第一歩に間違いない。だが、女性が重要な意志決定にかかわることで、市場を反映した多面的な視点が業務に含まれるようにすることが、企業が目指すべき本質だとすると、その道はまだ遠い。
女性を含む多様な人材が自分らしく能力を発揮し、成長し、組織に貢献できている状態を「インクルージョン」と呼ぶ。多様性を意味する「ダイバーシティ」は、日本でもなじみのある言葉になりつつあるが、「インクルージョン」は聞きなれない方が多いのではなかろうか。
インクルージョンとは、組織の中で「目的を同じくし帰属意識を持てること」と、「自分の個性が価値あるものと認められていると感じること」の両方の感覚を持てる時に実現するとされている。米国に本部を置く非営利組織カタリストが最近日本で行った調査によると、前者の意識を持てると回答した人が64%に上ったのに対し、後者の感覚を持てると回答した人は22%に過ぎない。
また、自分の個性が価値あるものとして認められていると感じられている女性は、そのように感じられない女性に比べ、約2倍も革新的な言動を取りやすいという結果も得られている。社員の個性に価値を置くことが、日本の組織でインクルージョンを醸成する上で必要なのである。
インクルージョンを実現する上でもう一つの重要な要素が、従来とはスタイルの異なる新たなリーダーシップである。前出の調査で、インクルージョンを感じることのできる組織を率いるリーダーには、失敗を許容する▽部下に権限を与えて育てる▽リーダー自身が謙虚さを持ち他から学ぶ姿勢を示す―という共通の特徴が見られることがわかった。これらの資質を持つリーダーを「インクルーシブ・リーダー」と呼んでいる。
減点主義から脱却し、多様な個性が持つ良い面に光を当てて部下を育成し、革新的な意思決定を促すインクルーシブ・リーダーが増えてこそ、多様性の一つである女性の活躍に「魂」が入るのではないだろうか。